縷々のつぶやき

昭和11年創業!岩喜蓄音機店の3代目店主。現在は、LURU MUSICとして、CDショップ、音楽ホール、音楽制作、音楽イベントなどの企画運営を通じて、地域から世界を楽しくすることを日々楽しんでいます。旧:演歌商店のつぶやき。

南葵音楽文庫 明日に繋ぐ特別な一日

とらふすクラシック・230
南葵音楽文庫 明日に繋ぐ特別な一日
     慶應義塾大学名誉教授 美山良夫
公開から間もなく丸四年。世界的な音楽コレクションを所蔵する和歌山県立図書館は今月二〇日(土)、貴重資料の調査、保存、そして明日に繋げる活動をまとめて紹介する講座とミニ・コンサートを開催する。

紀州徳川家第十六代当主の徳川頼貞が蒐集した音楽資料は、関東大震災や戦禍に見舞われながらも継承され、現在その数約2万点。五年前、その全てが和歌山県に寄託された。ベートーヴェンの自筆楽譜などの貴重資料ばかりでなく、最近いくつもの発見が続き、新たな価値が加わった。最新の調査から明らかになった点を紹介する重要資料報告会で、私は報告者のひとりとして、八十年前、日本初の本格的なワーグナー歌劇上演であった「ローエングリン」が、戦時下の統制のもと、南葵から借りた楽譜を用いおこなわれた事実を紹介する。

貴重な資料には、損傷が目立つものもある。音楽文庫を所有している読売日本交響楽団が始めていた修復は、和歌山県寄託後も継続している。西洋の古書籍の装幀や製本に通じ、修復技術をもった専門家は日本にほとんどいない。当日は担当している飯島正行氏が来和、埼玉の工房での作業の実際と、貴重資料の保存修復の「心と技」をお話しいただく。

頼貞と父、徳川頼倫の文化貢献からもたらされた資料等は、音楽文庫のほかにも多々伝えられている。現在、和歌山県立近代美術館で開催されている「和歌山の近現代美術の精華」展では、県出身の美術家を集めて南紀美術会を創立した徳川頼倫や頼貞の事績にも触れられている。今回は県立博物館、県立図書館の学芸員、司書から、各館が所蔵する音楽文庫以外の南葵資料のあらましをご紹介いただく。

最後は、講座で学んできた南葵音楽文庫サポーターの有志が主導するミニ・コンサート「徳川頼貞 音楽への旅立ち」。彼が少年時代に感動した音楽、弟との連弾を、そのときの頼貞と同じ年代の和歌山の若い才能が演奏する。盛りだくさんな一日だが、音楽文庫からの広がり、明日への繋がりを感じとられることを期待している。

プロフィール 美山良夫
慶應義塾大学名誉教授。二〇一七年から和歌山県立図書館委託研究員のひとりとして南葵音楽文庫の調査に従事。