縷々のつぶやき

昭和11年創業!岩喜蓄音機店の3代目店主。現在は、LURU MUSICとして、CDショップ、音楽ホール、音楽制作、音楽イベントなどの企画運営を通じて、地域から世界を楽しくすることを日々楽しんでいます。旧:演歌商店のつぶやき。

ゼバスちゃんはお嫌い?

今日付け、わかやま新報”とらふすクラシック・62”
  ゼバスちゃんはお嫌い?
    クラヴィーア奏者  山名敏之

 ヨハン・ゼバスチャン・バッハと聞くと、皆さんは真っ先にどんなことを思い浮かべるでしょうか。難しい、理解できない、感動のツボはどこにあるのだ?等と老獪なクラシックファンでも見向きもしない方がある一方で、無人島にたったひとつだけ楽譜を持って行けるとしたらそれはバッハの平均律クラヴィーア曲集だ、などとおっしゃる方もいます。
 そんな状況を少しでも打開するべく、バッハの作品とバッハに関わる作品のみで構成され、バッハの全クラヴィーアソロ作品(オルガン作品を除く)を全21回で聴いてしまおうと言うチクルス「バッハ マニア」は始まりました。毎回バッハの作品を独創的な切り口で再構成し、エレガントなバッハ、ユーモアたっぷりのバッハ、チャーミングなバッハといった意外な一面をクローズアップするとともに、若い時からすでに完成していた作曲技法、年代によって偏るジャンル、舞曲の様式とその混交、フーガの技法の成熟過程といったバッハマニアならぜひ知っておきたいトピックを提供しています。
 今回で第9回を迎える「バッハ マニア」のテーマは「カプリッチョ」です。カプリッチョとはイタリア語で「気まぐれ」「思いつき」を意味します。バロック時代初期において、カプリッチョは対位法を駆使した作品でありながら、意表をつく奇抜な着想が盛り込まれるといった特徴がありました。これをバッハがどう自家薬籠中の物としたのか。《カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに」》には、戦地に赴く兄とはもう再び相見えることはないかもしれない、そういった現実に直面したバッハの激しい感情の発露が見られます。一方で同じく若かりしバッハの作品である《カプリッチョ「ヨハン・クリストフ・バッハを讃えて」》には気のいい若者の気質、ユーモアが溢れています。そして名作《パルティータ 第2番》の終曲に置かれた「カプリッチョ」にはあらゆる情緒が調和を持って統括され、深い感動をもたらします。果たして「カプリッチョ」という名の下に、そこに通底するものはあるのでしょうか。フレスコバルディやクーナウの作品と対峙させながら、その謎を解き明かしていきます。

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プロフィール 東京藝術大学卒業。オランダ留学後NHK「ぴあのピア」に出演。ハイドンのCDはレコード芸術(特選盤)等。大桑文化奨励賞。和歌山大学教育学部教授。
 

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