縷々のつぶやき

昭和11年創業!岩喜蓄音機店の3代目店主。現在は、LURU MUSICとして、CDショップ、音楽ホール、音楽制作、音楽イベントなどの企画運営を通じて、地域から世界を楽しくすることを日々楽しんでいます。旧:演歌商店のつぶやき。

「こころ」と「いのり」のコンサート

とらふすクラシック・253
「こころ」と「いのり」のコンサート
ヴァイオリニスト、前• 東京藝術大学長 澤 和樹
2020年4月7日に最初の緊急事態宣言が発出され、首都圏を中心に「ステイホーム」の日々となりました。それを受けて東京藝大のキャンパスがある台東区から、自粛期間に家庭で世代を超えて楽しんでもらえる音楽番組の制作に協力して欲しいとのご依頼を受けました。音楽学部の前身である東京音楽学校は、国民に西洋音楽の基礎を学ばせる教材として、小中学校で教える唱歌の作歌も担っていました。多くの方々が音楽の授業で学んだ唱歌を、あえて歌唱ではなくヴァイオリンで奏でることで、テレビを見ながら口ずさんでいただきたいという想いで、明治から大正にかけて作られた代表的な唱歌を旧東京音楽学校奏楽堂の舞台で収録しました。共演者も、感染拡大への配慮もあり、妻でピアニストの蓼沼恵美子、娘でヴァイオリニストの澤 亜樹によるファミリーでの演奏となりました。私自身も教科書で慣れ親しんだこれらの曲は、現代の教科書ではほとんど姿を消してしまっていますが、いずれも日本の原風景を描き、やさしさ、懐かしさ、素朴さに溢れた「日本のこころ」そのものです。今月6日からテレビ和歌山で始まった音楽番組「澤和樹ふるさと心のうた」でも演奏させていただいています。

一方、なかなか収束の気配が見えてこないコロナ禍に加え、ロシアのウクライナ侵攻による新たな不安が世界中に拡がっています。この度、「いのり」にまつわる名曲を集めたCDをリリースしました。聖母マリアを讃える「アヴェ・マリア」や、出征した息子の無事を祈る母を描いた「ロンドンデリーの歌」など、そこには「自分のためではなく『ひと』の幸せを願って祈る」という祈りの本来の姿が込められています。娘婿でもある、群馬交響楽団首席クラリネット奏者の西川智也も加わり、現代人がどこかに置き忘れてきてしまった「やさしさ」や「おもいやり」の大切さをもう一度、皆様とともに考える機会となれば幸いです。

プロフィール 澤 和樹
1955年和歌山市生まれ。東京藝術大学卒業、同大修士課程修了。安宅賞受賞。ロンドン留学を経て帰国、
各地で演奏活動を重ね、県文化賞受賞。前•東京藝術大学学長。和歌山県立図書館音楽監督