縷々のつぶやき

昭和11年創業!岩喜蓄音機店の3代目店主。現在は、LURU MUSICとして、CDショップ、音楽ホール、音楽制作、音楽イベントなどの企画運営を通じて、地域から世界を楽しくすることを日々楽しんでいます。旧:演歌商店のつぶやき。

彼らの「白鳥の歌」~華麗なる饗宴2022~

とらふすクラシック・270
彼らの「白鳥の歌」~華麗なる饗宴2022~
           ピア二スト 天羽博和
今回の「華麗なる饗宴」ロマン派シリーズ第4弾では、2人の楽聖の晩年の作品を取り上げる。本来ベートーヴェンは古典派の作曲家だが、作品90以降はロマン派と呼んでも構わないのではないか。それ以前の作品と比べて技巧的な表現は影を潜め、声楽的な要素が非常に強いことが共通点である。ピアノが歌える楽器に進歩し、そこにベートーヴェン自身が気づいたことに他ならない。最後から2番目に書かれた「ピアノソナタ第31番作品110」には、栄光と挫折、裏切りと希望が描かれ、まるで、このまま天に召されてしまうのではという境地にさせられる。

一方、ブラームス後期ピアノ小品集は13年ぶりに書かれたピアノ独奏作品であり、「6つの小品作品118」も最後から2番目のピアノ独奏作品に当たる。多くは3部形式など簡素な形式となっているが、そこに対位法などの熟練した書法を用いるなど、洗練された深い味わいを持つ。今回はデビュー以来の演奏になるが、若手ピアニストが演奏する例は決して多くはない。当時、若い頃にしかできない表現をしたいという一心で選曲したように思う。

そして若い奏者にも花を添えてもらい、「クラリネット三重奏曲作品114」を演奏する。「クラリネットソナタ作品120-1.2」ではB管だが、この曲ではA管と呼ばれる特殊管を用いており、深みと厚みのある音を奏でる。晩年、名手との出会いがこれらの作品の作曲に火をつけた。

また、ベートーヴェンの「6つのバガテル作品126」は「交響曲第9番作品125」と同時期に書かれた最後のピアノ独奏作品、つまり今回のプログラムはすべて、彼らの「白鳥の歌」と言えるだろう。

歴史上の多くの作曲家が私よりも若くして亡くなっており、また自分の年齢がベートーヴェンブラームスの最晩年と重なっていることに気付く。今回、非常に渋い内容のプログラムとなったが、秋の夜長に音楽を通じて、それぞれの想いを巡らせながら聴いてほしい。

天羽博和 プロフィール
大阪府生まれ。和歌山在住。相愛大学音楽学部卒業。京都フランス音楽アカデミー、フランス・クールシュヴェール等でも研鑽を積む。2018年、日本人7人目となるドビュッシーピアノ独奏作品全曲演奏を完結。20年、第2回日本室内楽ピアノコンクールに入賞。