縷々のつぶやき

昭和11年創業!岩喜蓄音機店の3代目店主。現在は、LURU MUSICとして、CDショップ、音楽ホール、音楽制作、音楽イベントなどの企画運営を通じて、地域から世界を楽しくすることを日々楽しんでいます。旧:演歌商店のつぶやき。

この25年を振り返って

とらふすクラシック・181。
   この25年を振り返って
          ピアニスト 天羽博和
演奏活動を始めてから今年で25年を迎えた。まだ四半世紀しか経ってないのかとも思う。阪神・淡路大震災直後、初めての演奏会のあった神戸・三宮で見た光景はあまりにも衝撃的で、未だに脳裏にしっかりと焼き付いている。それは25歳の誕生日でもあった。リスト「ペトラルカのソネット第104番」とブラームス「ピアノ小品集作品118」というプログラムで、自身の若さをもってどれくらいのことを表現出来るか、ある意味大きな挑戦であった。しかしその本番直前、夕食の支度中に包丁で指先を切ってしまうアクシデントのため不本意な演奏となり、文字通り痛いスタートとなった。

しかしその後、オーソドックスなレパートリーから離れ、ドビュッシーラヴェル、また、スクリャービンラフマニノフバルトークら近現代の作品群を弾きあさるようになる。とりわけドビュッシーについては自分の感性と合ったのか、好評価を受けることが多くなった。やがて四十路を迎え、人生の折り返し地点に差し掛かった私は、ライフワークでもある『華麗なる饗宴』を「アンニュイな休日の午後を音楽とカフェでもてなすお洒落なコンサート」として始め、まずはドビュッシーのピアノ独奏作品の全曲演奏に取り組んだ。 昨年からは「週末の夜にお送りするお洒落な大人のロマンティックコンサート」としてリニューアルし、ロマン派時代の音楽を取り上げている。

この25年を振り返ると、実はショパンの作品をほとんど演奏していないのである。今回、そのショパンの初期と晩年の大曲を取り上げるのだが、これらの2曲を比較すると、構成面で酷似する点が多く興味深い。さらにそれは、晩年のチェロソナタにも同様に言える。それだけショパンは、若くして完成された作曲家だったということである。そしてまた、今回の『華麗なる饗宴』のプログラムは、全て短調で構成されている。暮秋にそれぞれの想いを馳せながらお聴きいただければ幸いである。
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プロフィール
大阪府生まれ。和歌山在住。相愛大学音楽学部卒業。京都フランス音楽アカデミー、フランス・クールシュヴェール等でも研鑽を積む。2018年、日本人7人目となるドビュッシーピアノ独奏作品全曲演奏を完結させた。今年、第2回日本室内楽ピアノコンクールに入賞した。