わかやま新報
とらふすクラシック・384
演奏活動30周年リサイタルに寄せて
ピアニスト 天羽博和
1995年7月の神戸・かんしんフレッシュコンサートが最初の演奏活動に当たる。本来はこれより約半年前、大学卒業を控えた1月21日に開催予定だったが、同月17日に起こった阪神淡路大震災により延期されたのであった。この時期にこのリサイタルを開催するのはそういった理由からである。
その時の演奏曲は枯淡の境地、ブラームス「6つの小品作品118」。大震災の直後とあって、この作品の持つ諦観や寂寥がその凄まじい光景と重なり、恐ろしさのあまり長らく封印してきた。振り返ってみれば、20代半ばの若造には重荷だったように思う。
さて、リサイタルは、今回で4回目となる。1回目は2000年に新宮市で、ドイツ・フランスもの、2回目は2004年に同じく新宮市で、近現代をメインに構えたもの、3回目は2010年に会場を和歌山市に移し、ドイツ3Bによるもの。そして、15年ぶりの今回はドイツロマン派によるもの。一見、前回と似ているように思えるが、テーマを「白鳥の歌」、つまり彼らが様々な人生を経て辿り着いた晩年の作品に焦点を当てている。
ベートーヴェン「6つのバガテル」は交響曲第九番の合間に書かれた最後のピアノ独奏作品。シューベルト「岩の上の羊飼い」は生前に書かれた最後の歌曲で、「幻想曲」も同年に書かれている。演奏機会の少ないシューマン「精霊の主題による変奏曲」は、作曲中に自殺未遂を起こし、事実上最後の作品となった。ブラームス「クラリネット三重奏曲」は、晩年の作曲で、涙なしには語れない名曲中の名曲。決して華やかではないが、これらのプログラムを通して彼らの人生に思いを馳せながら、聴くのはどうだろうか?
今回、共演機会の多い南方美穂さん、石川博之さん、そして初めてになる久保美雪さん、宮井愛子さんと室内楽中心で演奏することとした。常にこれが最後と思い、悔いのない演奏を心がけている。ここ数年取り組んできた「白鳥の歌」もこれで最後。阪神淡路大震災からも30年。追悼・鎮魂として心を込めて演奏したい。
プロフィール
大阪府生まれ。和歌山在住。相愛大学音楽学部卒業。スイス・ルツェルン、フランス・クールシュヴェール等でも研鑽を積む。2018年、ドビュッシーピアノ独奏作品全曲演奏を完結。23年、岡原慎也指揮テレマン室内オーケストラと共演。24年、杉谷昭子ピアノアカデミー演奏家支援企画vol.3にて杉谷昭子賞受賞、東京すみだトリフォニーホールでリサイタル開催。