縷々のつぶやき

昭和11年創業!岩喜蓄音機店の3代目店主。現在は、LURU MUSICとして、CDショップ、音楽ホール、音楽制作、音楽イベントなどの企画運営を通じて、地域から世界を楽しくすることを日々楽しんでいます。旧:演歌商店のつぶやき。

ミニピアノ ~河合小市による独創的な単弦楽器

本日付け、わかやま新報、とらふすクラシック・134。
 ミニピアノ ~河合小市による独創的な単弦楽器
            ピアニスト 砂原悟
2017年の春に、ふと思い立って山陰を旅したときのこと。松崎という鳥取の小さな駅にあるゲストハウスにその楽器はあった。カフェの片隅にあったその物体は小さくて、初めはピアノだとは思わなかった。しかし蓋を開けてみると鍵盤がある。鍵盤数を数えてみると40。何だこれは。クラヴィコードだってもっと鍵盤数が多い。ふつふつと興味が湧く。幸い客が私ひとりだったので、店の人に許可をもらって音を出してみた。音が鳴らない鍵盤や、鳴っても弦が切れていて変な打楽器のような音のする鍵盤が多い。だが中には普通に鳴る音があって、その音が妙に柔らかく、いい感じの音なのだ。いつしかプリペアド・ピアノ風の即興演奏に興じていた。

京都に戻ってから、その楽器の存在が気になってしかたがないので検索してみた。はじめはトイピアノしかヒットしなかったが、しつこく検索していると、名古屋の調律師が同型のピアノを修復しているのを見つけた。カワイ楽器の創始者、河合小市が作ったオリジナル楽器らしい。電話してみると、まだ楽器があるとのことで、早速見に行く。松崎で聴いたあの音だ。ただ松崎の楽器より一回り大きい51鍵の楽器。それでも縦横約90センチの可愛いサイズである。今回使用するのはこの楽器で、資料によると終戦直後の1948年(昭和23年)製らしい。普通3本張られている弦が、1本しかない。同じく単弦のリュートやハープに少し似た感じの音。ピアノを単弦でというのは、楽器作りを一から考え直させられる発想ではないか。アクションも河合小市の独創的なもので、調律師に言わせると天才的な工夫があるそうだ。

この楽器の音色が生き、かつ音域がカバーできる楽曲はそう多くはないが、それを探すのも楽しい。いろいろ試した結果、スウェーリンクから現代まで4部構成の面白いプログラムができた。珍しいミニピアノの音を、ぜひ一度ご体験あれ。

プロフィール 砂原悟
東京藝術大学大学院、ミュンヘン音楽大学修了。ポルト市国際ピアノコンクール入賞。クロイツァー賞受賞。京都市立芸術大学教授。東京藝術大学非常勤講師。