縷々のつぶやき

昭和11年創業!岩喜蓄音機店の3代目店主。現在は、LURU MUSICとして、CDショップ、音楽ホール、音楽制作、音楽イベントなどの企画運営を通じて、地域から世界を楽しくすることを日々楽しんでいます。旧:演歌商店のつぶやき。

「南葵音楽文庫の至宝」展 見どころ紹介

本日付け、わかやま新報、とらふすクラシック・117。
「南葵音楽文庫の至宝」展 見どころ紹介
         慶應大名誉教授 美山良夫
紀州徳川の音楽遺産が県立博物館で展示されている。調査を手伝う身でも、ふだんは見られない貴重資料が並んでいる。ベートーヴェンベルリオーズの自筆、稀少な初版楽譜、それも初演用の試し刷り、「埴生の宿」の原譜など、まさに壮観。前回の展示は県立博物館収蔵の資料だけであったが、今回は県立図書館保管資料の優品も加わり、このコレクションの全体像が俯瞰できる。同時代資料だけあって、パーセルヘンデルなど作曲家の息吹も伝わってくるかのようだ。展示資料には、簡潔な説明が付されている。とはいえ、資料は自分から声を発し、出生の秘密や生い立ちを、過去の持ち主を、和歌山に辿りつくまでの曲折を語れない。そこを埋めてくれるのが、学芸員による日曜日のミュージアムトークだろう。

約一世紀前、紀州徳川家十六代当主の徳川頼貞は、わずか十数年で東洋一の音楽専門図書館を実現した。その頼貞が、当時主任司書をつとめ、和歌山に戻ってからは郷土文化賞揚に尽力した喜多村進に宛てた自筆の書簡も展示されている。

企画展と並行して、県立図書館の南葵音楽文庫閲覧室では、徳川頼貞の著作、自筆の原稿、対談や寄稿を集めた展示が始まっている。頼貞の、音楽を通じた貢献への思い、進取の精神、交友スケールの大きさが文中に溢れている。同閲覧室では、私たち研究員が分担し、毎週末ミニレクチャー(無料、予約不要)を開催中。貴重資料をひもとき、文庫の魅力、音楽にとどまらない歴史的な広がりを紹介している。

聴講している人たちから生まれた「南葵ボランティア」の活動は、ことし二年目を迎えた。自主的な読書会等を通じ、文庫への理解を深め、それを和歌山へ、この時代へ広めようとしている。資料を書庫に眠らせておかず、実際に演奏に活用するなど、文庫から新しい文化の「渦」も生まれつつある。戦争などで叶わなかった頼貞の夢を、紀州徳川ゆかりの地で実現する一助となるなら、調査に携わるひとりとして、これにまさる喜びはない。

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プロフィール
慶應大名誉教授。著書:「音楽史の名曲」、「フォーレ・ピアノ音楽全集」(楽譜校訂)等。2006年から南葵音楽文庫の調査に従事。