本日付け、わかやま新報、とらふすクラシック・112。
隠れた名曲に光りをあてる
チェリスト 林 裕
バッハからベートーベン、ブラームスというと、音楽史上で繋がっているように感じますが、実はそれぞれの生涯は重なっていません。ビートルズからマイケル ジャクソンよりも時代の隔たりがあるわけです。同時代を生きたため出会える物があり、遺す努力をしたからこそ楽しむ事が出来る芸術があります。
音楽の殿様であった徳川頼貞は、サン=サーンスと親交の深かった晩年のホルマンに会い、日本に招聘しました。ホルマンは高名なチェリスト兼作曲家で、頼貞が収集した南葵音楽文庫の中には千点もの楽譜があります。 セルヴェ協会名誉会員である私は、昨年のベルギー演奏旅行の演奏曲目を決めるにあたって、ベルギーに関係するチェリストの作品から選ぶことにしました。
19~20世紀初頭のベルギーは弦楽器を学ぶ聖地として繁栄していて、そのベルギー楽派の中にホルマンが属している事がわかりました。時を同じくして、南葵音楽文庫の一般公開が始まり、自分の活動と、きのくに音楽祭が結びつくきっかけになりました。
プログラムの最後を飾るセルヴェ(1807〜1866)は、ブリュッセル近郊のハレ生まれの当時の最高のチェリストで、前出のホルマンの憧れの存在であり、ベルギー楽派の中心人物です。「チェロのパガニーニ」と呼ばれ、ウィーンフィルの創立記念演奏会でソリストも務めました。現在のハレの教会広場にチェロを持った8mもある像が聳え建っており、ビールやシャンパン、レストランや好物だったメニューに至るまで、彼の名前を冠した物で溢れています。
未知の作品は、曲の理解や価値の判断、作曲家について調べる事ですら苦労しますが、自ら音楽表現する事や、お客様に楽しんで頂ける事が大きな喜びです。 今回は、きのくに音楽祭と同じコンセプトの作品を、シューベルトに精通する宮下直子さんと、アルペジョーネソナタと共に演奏します。知るを楽しむ発掘コンサートに是非ご来場下さい。
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プロフィール 林 裕
東京芸術大学音楽学部卒。62回日本音楽コンクール第1位・黒柳賞受賞。ドイツ・フライブルク音楽大学大学院首席修了。チェリストが書いた作品を広めるがライフワーク。