本日付け、わかやま新報、とらふすクラシック・122。
ワルター・アウアー氏を迎えて
ピアニスト 村田千佳
フルーティスト、ワルター・アウアーさんのファンは多い。飾らない性格、さり気ない気遣いで人を惹きつける。以前、ヴァイオリニストのライナー・ホーネックさんが、あるアウアーさんの熱烈なファンの方が「ホーネックさんも素晴らしいけれどやっぱりアウアーさんが素敵」と言っていたと聞かされて、「フルーティスト? ヴァイオリニストが一番格好いいに決まってる」と皆を笑わせていたが、そんなアウアーさんのウィーンでのフルート盗難事件は記憶に新しい。その楽器は素晴らしく温かみのあるなめらかな響きを持っていた。材質は24金。例えばある程度以上のクラスの弦楽器の場合、万が一盗難にあったとしても、闇取引でもされない限り、市場に出た瞬間に足がつく。しかしフルートという楽器は材質は金・銀・プラチナなど、言ってしまえば非常に精巧に作られた(怒られるかもしれないけれど貴金属製品なのである。溶かされてしまったら製造番号も製作者のサインも跡形なく消えてしまう。結局その楽器は出てこなかった。今頃は誰かの指に輝いているのだろうか。願わくば美しい人の指にはまっていてほしいものだ。
さて今回のプログラム、メインはシューベルト。ピアノ独奏作品をアペリティフに、名曲「しぼめる花による変奏曲」を置いた。シューベルトの自作歌曲による変奏曲といえば、ヴァイオリンとピアノのための幻想曲(D934)では、歌曲「挨拶を送ろう」が使われている。シューベルト作品の中で「幻想曲」と「しぼめる花」は、技術的な難しさと音楽の美しさという点でおそらく双璧をなすだろう。美しくドラマティックな歌曲の世界を楽しんでいただけたらと思う。他には、オーストリア生まれのアウアーさんたっての希望でモーツァルトのソナタ、そして充分にフルートの魅力が聴ける、フォーレ、ベーム、エネスクを並べている。初めての来和となるアウアーさん、携えてくるのはもちろん三響24金の美しいフルートだ.。
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村田千佳 ピアニスト
和歌山市生まれ。東京藝大学附属高校、同大学同大学院修了後、ウィーン国立音楽演劇大学大学院修了。大桑文化奨励賞、和歌山市文化奨励賞、和歌山県文化奨励賞受賞。