とらふすクラシック・159
ヴァイオリン製作者・無量塔蔵六さん
アーティストサービス夢や 成川弘治
会いたい人には会いたい時に会っておく、僕が常に大切にしている事。まだ調律師の駆け出しだった頃、同時にヴァイオリン製作を始めていました、きっかけはロケットの権威だった糸川英夫さんで、彼が戦後GHQに研究を禁止された際やる事無くてストラディヴァリウスの研究をしていたからで、彼が作ったヴァイオリンの製作記録と論文がとても興味深く、自分も製作してみようとしたのが最初でした。
兎に角何処から手を付けたら良いかで、素人なりに製作は進んでいたが、本職の人間に教えて欲しい事だらけ、どうせなら日本の第一人者に話し聞いた方が早いって事で、出会ったのが無量塔蔵六さんでした。こっちは無名の素人、向こうは、世界中のコンクールの審査員を任されている日本で初めてヴァイオリンの製作マイスターになった方で、当たり前だか相手にして貰えない。
でも素人の怖い所は彼が如何に凄い人かってのも分かってなくて、手紙や電話続ける内に、最後は来て良いよ…と言ってくれた。すぐに五反田まで飛んでって開口一番君は歳を取り過ぎている、あと何年か早くに来てれば弟子入り出来たが…と言われた。
こっちはありとあらゆる事を知りたかっただけで、弟子になれるなんて1ミリも思っていなかったが、工房から何から全てを見せて説明してくれた。当時まだ東京ヴァイオリン製作学校は閉校になる前で、工房にはお弟子さんがおられたし、隣のマンションの一室の資料庫には無数の弦楽器で溢れていた。あれから20年以上経って思うけど、ヴァイオリン製作者になるには遅すぎると言った親方の言葉にはそれで諦めるようなら、良い楽器なんて作れないよ…と言う言葉も隠されてたように思う。
その親方が92歳で亡くなったのをつい先日知った。もうヴァイオリンについて尋ねる事が出来ないけど、いづれヴァイオリン製作を再開し、お会い出来た事と、在りし日の工房のまだ活気があった頃の姿を思い出しながら別れを惜しみたい。
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成川弘治
海南市在住、アーティストサービス夢や代表、スタインウェイ会正会員、一級ピアノ調律技能士。和歌山の田舎から世界に目を向けているピアノ職人。ピアノと共に人生を楽しんでいます。