本日付け。とらふすクラシック・82。
ピアノ・ヴァイオリン デュオ・リサイタル
ピアニスト 千田和美
「モーツァルト、ベートーベン、ブラームスのソナタを演奏します」と言うと、皆さん「難しい大曲ばかりですね」とおっしゃる。これはもちろんその通り。特に今回のモーツァルトは「傑作」と言われているものだし、ベートーベンも「スプリングソナタ」という題名まで付けられていて大変親しまれている傑作だ。そしてブラームスの3番においては、なんと「この曲の大ファンです」とおっしゃる方が多いことか。
さて、ここでふと考える。ではこの中で「一番難しい曲」はどれだろう?この答えが私たち音楽家にとってはとても興味深い。楽譜を見るとどう考えてもブラームスが断トツで一番難しい。そもそも音がめちゃくちゃ多い。そしてその音の動きが激しい。新しい楽譜のはずなのに開くとすでに黒く見える(笑)。特にピアニストは「これはもはやソロでは?」と皆さん泣かれるほどの音の数だ。
一人でも弾くのが難しいものを他の楽器と合わせるのだから、これはもう難しいに決まっている。当然1回目の合わせなんて、微妙なタイミングがつかめずに顔を見合わせて笑ってしまう部分もあったりする。その点モーツァルトは違う。音が少ない上に動きもシンプル。楽譜を見ても白い。合わせもそう難しくはない。1回目からさらっと難なく合ってしまう。ベートーベンもモーツァルトほどではないがその方向だ。
ところがである。合わせを何回かするうちにどんどん逆になっていくのだ。モーツァルト、ベートーベンがなんと難しいことか。やればやるほど難しく感じる。逆にブラームスはどんどん肌に馴染んでいく感じがして、どんなテンポでもどんな歌いかたでも、相手が「その時だけいつもとは違う」ことをしてもピタリと合わせられたりする(これはもちろん相手によっては逆に不可能だが)。 作曲家によって「難しさ」が全く違うのだ。さて、本番まであと少し。そういう難しさも乗り越えた「音楽」だけを、客席の皆様に感じていただけるよう頑張りたい。
千田和美 桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学卒業。インディアナ大学音楽学部大学院パフォーマー・ディプロマコース修了。全日本ピアノ指導者協会正会員。
クリック→