縷々のつぶやき

昭和11年創業!岩喜蓄音機店の3代目店主。現在は、LURU MUSICとして、CDショップ、音楽ホール、音楽制作、音楽イベントなどの企画運営を通じて、地域から世界を楽しくすることを日々楽しんでいます。旧:演歌商店のつぶやき。

シンプルなバターパスタを香り高く

今日付け、わかやま新報”とらふすクラシック・68”
シンプルなバターパスタを香り高く
        ピアニスト 砂原悟

 もう30年以上前の話だが、パリにコンクールを受けに行ったときに、事務局の世話で外交官のお宅にホームステイさせてもらったことがある。到着した日、さて夕食をどうしようかと、近くに適当なレストランがあるか尋ねたら、奥様が「息子の友達が遊びに来るから一緒にディナーを食べたらいい」と言ってくれた。それは助かる。お礼を言って適当な時刻にキッチンに行ってみると、なるほど大学生くらいの男友達がひとり来ていた。しかし息子さんと彼の2人きり。「やあ、一緒に食べよう!ライスとパスタどっちがいい?」と聞かれ「???」わけも分からずキョトンとしていると、「じゃ、両方やろう」と2つの鍋にライスとマカロニを別々に茹でて、茹で上がったそれらにすっとバターをナイフで削って乗せ「召し上がれ!」・・・なんとディナーはこれだけ。
 今ではこのシンプルさ、わかるし嫌いじゃない。日本のおにぎりだって茶漬けだって似たようなものだと思う。だがそのときは、けっこうショックだった。だってフランスよ?あの「料理」のおフランスですよ? しかし落ち着いてよく考えてみると留学していたドイツだって朝晩は火を入れない食事(パンにチーズやハムをはさむだけ)だし、ヨーロッパにはけっこうこういう質素な面がある。そのパリっ子は少し極端だったが。
 今回、宮下直子さんと弾くフランスものの連弾プログラムは、とても音が少ない。殊にラヴェルの「マ・メール・ロワ」はシンプルの極みと言ってよいと思う。だがとても深い。こういう高度に洗練されたシンプルさはフランスの得意とするところだろう(そんなフランスも日本の浮世絵のシンプルさに参ったのだが・・)。ただのバターパスタではない。気高い香りが利いている。カルヴァドスやハーブだ。そんな芳香を人は「エスプリ」と言うのだろう。禅と茶の湯の国のデュオが、フランス音楽のエスプリに挑む午後。どうぞお楽しみに。
プロフィール 砂原悟 東京藝術大学大学院、ミュンヘン音楽大学修了。ポルト市国際ピアノコンクール入賞。クロイツァー賞受賞。京都市立芸術大学教授。東京藝術大学非常勤講師。
 

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